工場の煙突から排出される排気ガスは、多くのリスクがあるのをご存知でしょうか?
大気汚染や健康被害、場合によっては悪臭による住民トラブルに発展するケースもあります。
そこで本記事では、排気ガスの種類・環境や健康へのリスク・工場に煙突が必要な理由についてまとめてみました。
工場から発生する排気ガスとは?
生産している商品や業種にかかわらず、多くの工場には「煙突」が設置されています。
工場に設置された煙突は、建物内部と周辺エリアの安全性を確保するうえで欠かせない設備です。
にもかかわらず、安全設備である煙突が人々にネガティブな印象を与えているという事実も否定できません。
実際、工場の煙突から排出されている煙を見る度、「環境を汚染しているのでは?」「健康被害に繋がるのでは?」と不安に思われる方もいらっしゃいます。
周辺エリアから理解が得られるよう、稼働後に工場から発生する排気ガスの影響・種類について理解を深めておきましょう。
▼工場と排気ガスの関連性
・排気ガスと大気汚染の関係
・規制対象の排気ガスとは?
・業種別の排出量
・工場の煙突から見える「白煙」の正体は?
排気ガスと大気汚染の関係
大気汚染の原因を大きく分類すると、下記の2種類に分けられます。
▼大気汚染物質の主な発生源
・自然起源:火山排出物/森林火災など
・人為起源:化石燃料の燃焼による排出物/生産活動によって生成されたガスや粒子状物質など
さらに、大気汚染の人為起源は主に下記の2種類から成り立っており、特に固定発生源にカテゴライズされている「工場からの排気ガス」には厳密な規制が設けられているのです。
▼人為起源の主な内訳
・固定発生源:工場/火力発電所など
・移動発生源:自動車/飛行機など
どんなに技術が発達しても、人が大気汚染物質の自然発生源を100%コントロールすることはできません。
一方で私達が社会活動を行う過程で発生する人為起源、中でも質量の大きい工場については「適切な処理設備を備えた煙突」によって排気ガスを最小限に抑制することが可能なのです。
規制対象の排気ガスとは?
工場から発生する排気ガスは、「大気汚染防止法」および「悪臭防止法」によって規制されており、一定の排出量を超えないように義務付けられています。
下記の一覧表は、環境省の公式ホームページ上で一般公開されている規制対象の排気ガスです。
引用:環境省「工場及び事業場から排出される大気汚染物質に対する規制方式とその概要」
煙突を用いて排出すべき排気ガスは種類が多いうえ、工場で扱っている「物質」や「処理方法」はもちろん「建物の規模」によっても異なります。
そこで、一例として煙突による排ガス処理が有効とされている、代表的な2つの業種についてピックアップしてみました。
▼排気ガスの一例(業種別)
・ゴミ焼却場:ばいじん(煤など)/硫黄酸化物(Sox)/窒素酸化物(NOx)など
・製油所:メタンなどの炭酸水素ガス/硫黄水素など
大気汚染防止法では、さまざまな排気ガスが規制対象に指定されています。
特筆すべきは、特に工場・事業施設からの質量が多く健康被害の懸念が高い下記3種類について、環境省が3年ごとに「排出量の推移」と「業種の比率」について定期調査を行っているという点でしょう。
▼環境省による排出量の調査対象
・硫黄酸化物(Sox)
・窒素酸化物(NOx)
・ばいじん
硫黄酸化物(SOx)の排出量
出典:環境省 大気汚染物質排出量総合調査結果(平成 26 年度実績)
上記の調査結果から、下記の2点が見えてきます。
▼SOx排出量のポイント
・業種別では、「電気業」が全体の約1/2を占めている
・施設別では、「ボイラ」が全体の約2/3を占めている
窒素酸化物(NOx)の排出量
引用:環境省 大気汚染物質排出量総合調査結果(平成 26 年度実績)
硫黄酸化物ほどではないものの、窒素酸化物についても排出量が突出していたのは電気業とボイラでした。
▼NOx排出量のポイント
・業種別では、「電気業」が全体の約1/3以上を占めている
・施設別では、「ボイラ」が全体の約1/2を占めている
ばいじんの排出量
出典:環境省 大気汚染物質排出量総合調査結果(平成 26 年度実績)
一方ばいじんは、特定の業種ではなく複数の業種が似たような排出量を示しているのが特徴です。
▼ばいじん排出量のポイント
・業種別では、複数の業種が排出している
・施設別では、「ボイラ」が全体の約1/2を占めている
工場の煙突から見える「白煙」の正体は?
結論から言うと、認可された工場の煙突から出ている「白煙」は有害物質でも煙でもなく、そのほとんどは大気によって冷却された排ガス中の「水蒸気」です。
認可された工場の煙突から出ている「白煙」は、そもそも煙でも有害物質でもありません。
寒気に息を吐くと白く見えるメカニズムと同様に、そのほとんどは大気によって冷却された排ガス中の「水蒸気」なのです。
▼白煙のメカニズム
・160~170℃ほどの排ガスが煙突から出る
・外気によって急激に冷やされる
・水蒸気が水滴へと形状変化し、白い煙状に見える
水蒸気の白煙は、「低気温」または「高湿度」の日ほど発生しやすいのが特徴です。
ちなみに、規制対象に指定されている「ばい煙」とは視覚的な違いが明確なため、簡単に見分けることができます。
▼「水蒸気の白煙」と「ばい煙」の違い
水蒸気の白煙:「煙突の先端」と「白煙」の間に、透明な空間がある
ばい煙:煙突の先端から直接「白煙」が出ている
工場における煙突の重要性と必要性
確かに、煙突は数ある排気設備の一種ですが、担っている役割はそう単純ではありません。
そこでこの段落では、そもそも「なぜ工場には煙突が必要なのか」、「どのようなメリットが得られるのか」について解説します。
▼工場における煙突の代表的な役目
・煙突内で排ガスを無害化してから屋外へ排出する
・燃焼効率を高めるドラフト効果
なお、工場に煙突を設置することで得られる効果については、下記の記事でも詳しく解説しております。
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煙突内で排ガスを無害化してから屋外へ排出する
煙突が担っている最大の役目は、何と言っても排ガスを安全・確実に排出することです。
ただし、単純に屋外へ排出すれば良いという訳ではありません。
工場の内部では、製品の製造・加工・廃棄処理などに伴ってさまざまな排気ガスが発生します。
その多くは環境破壊や大気汚染の原因となるのはもちろん、健康被害に繋がるリスクもあり、中には悪臭を放つ物質も少なくありません。
そこで重要となるのが「浄化機能を備えた煙突」の設置です。
工場内で発生した排ガスを煙突内で可能な限り「無害化」してから排出することで、環境と人体への悪影響を予防しつつ周辺エリアとのトラブルも防止します。
煙突の機能は進化を遂げており、現在では特定の排ガスをピンポイントで無害化・または抑制できるタイプも登場しているのです。
▼煙突機能の一例
・硫黄酸化物の対策:排煙脱硫装置
・ばいじん対策:ろ布を特殊表面加工したバグフィルターを通過させて、粒子を取り除く
・窒素酸化物の対策:燃焼させて抑制する「低NOx燃焼法」/アンモニアと反応させて窒素と水に分解する「排煙脱硝装置」
燃焼効率を高めるドラフト効果
排気ガスの多くは、燃料や鉱石などを燃焼させた動力を使って商品を製造・加工する、もしくは機材を運用する際に発生します。
特筆すべきは、工場の煙突が「安全性・効率性・経済性」の全てにおいて大きなメリットを与えてくれるドラフト効果に貢献しているという点でしょう。
ドラフト効果の仕組みは、下記のプロセスで成り立っています。
▼ドラフト効果の仕組み
・燃焼によって排気ガスの密度が薄まる
・熱膨張によって広がろうとする力が、上方方向に働く
・煙突によって閉じ込め、上だけを開放する
・排気ガスの排出速度が加速する
・排出速度が上がるほど、燃焼室側の気圧が薄くなる
・燃焼に必要な酸素を取り込みやすくなり、燃焼効率が高まる
・不完全燃焼が抑制される
・環境汚染物質が減り、なおかつ省エネにも繋がる
つまり、煙突を設置することで生まれるドラフト効果によって、「環境汚染物質の減少効果」と「燃焼効率アップによる省エネ効果」の両方が一度に叶う仕組みになっているのです。
ちなみに、煙突と似たような排気設備に排気筒がありますが、下記のような違いがあります。
▼「煙突」と「排気筒」の違い
・煙突:ドラフト効果が期待できる排気設備
・排気筒:排ガスを強制的に屋外へ導くための排気設備
日常生活への影響は?
結論から言うと、下記のいずれかに当てはまる場合は、エリア内の環境・近隣住民の日常生活などに対して悪影響を与える心配はありません。
▼環境・日常生活に悪影響を与えないケース
・排ガスを安全物質へと変換できる機能を有した煙突を設置している
・排ガスの排出量を、法令の基準値まで抑制することができる煙突を設置している
・排ガスの濃度を薄める機能を持った煙突を設置し、排出量を守って大気に拡散させている
その根拠となっているのが、排ガスの種類ごとに排出量を制限している2つの法令、すなわち「大気汚染防止法」と「悪臭防止法」です。
加えて、「大気汚染防止法施行規則第十五条」によって排ガスの種類ごとに定期的な測定が義務づけられているうえ、法令よりも厳しい基準を「条例」として設けている自治体も少なくありません。
▼環境や健康への被害
・硫黄酸化物/窒素酸化物:酸性雨
・ばいじん/塩化水素:喘息
・浮遊粒子状物質:気管支炎
・水銀:神経系の疾患
・光化学オキシダント(光化学スモッグ):目の刺激/めまい/頭痛など
まとめ
工場の煙突から見える白煙のほとんどは無害な水蒸気ですが、全ての排ガスが自然に浄化されて屋外へと排出される訳ではありません
言い換えれば、排気ガスが発生しやすい工場に適切な機能を備えた煙突を設置しているからこそ、「有害物質の無害化」または「排出量の抑制」などが可能なのです。
煙突の機能だけでなく、設計時に建物全体の構造を工夫することで排気ガスを効率的かつ経済的 に排出することも可能です。